第8回〈鑑賞ツール研究会〉の報告

日時◆2007年11月30日(金曜日)
  ◆18時30分〜
会場◆栃木県立美術館 普及分館ラウンジ

参加◆中学校教員  1名
  ◆美術館学芸員 5名
  ◆合計     6名

 2007(平成19)年11月30日、第8回〈鑑賞ツール研究会〉が栃木県立美術館の普及分館ラウンジを会場に開催されました。
 これまで2回にわたり、検討を続けてきた、美術館で発行している絵葉書に「投げかけキャプション」を組み合わせたキットを、具体的に、どのようなツールとして作成できるかについて話し合いを進めました。

【今回の議題】

■絵葉書を用いた「投げかけキャプション」に採用する言葉について

◆「投げかけキャプション」の内容として、これまでに挙げられた「言葉」がふさわしいかどうか、また、どのような「言葉」を選べばよいかについて、下記のような観点から分類を行なった上で検討した。

●そろそろ、「投げかけキャプション」に記す「言葉」の候補は出揃ったのではないか。

●描法や技法などの知識を意識させる「言葉」が、まだ、少ないかもしれない。

●投げかける「言葉」の表現には、子どもたちに対する教育的要素が必要か?

●ただ、「言葉」を投げかけるだけに止めてよいのか。それとも、鑑賞の授業にも使えるようにするのか。

●「投げかけキャプション」の目的を、もう一度、確認した方がよい。

●目的がはっきりとしないと、なかなか「言葉」も決まらないだろう。

●投げかけられた言葉によって、いろいろな意見が出ることは、鑑賞の広がりや深まりにつながるのだろうか?「言葉」を選ぶときには、そのような観点も必要だ。

●現在の小学校では、どのような図工の教科書を使用しているのか。子どもたちがいつも使っている図工の教科書の内容は、「言葉」を選ぶときの参考にならないか?

■絵葉書を用いた「投げかけキャプション」の目的

◆現在、小学校で使用されている図工の教科書が用意され、それを全員で見ながら、話し合いを進めた。

●これらの教科書を見ると、世界の美術史上で「名画」と呼ばれるような作品の画像が、ほとんど掲載されていない。

●掲載されているのは、ほとんどが、同学年の子どもたちによる制作の写真だ。こういう制作が「造形遊び」なのだろうか?

●子どもたちの制作のレヴェルも、むかしに比べるとかなり低下している気がする。

●現在の子どもたちが、たとえ、画像や写真ででも、歴史上の傑作や名作に出会う機会がないことは、大きな問題ではないだろうか?

●絵葉書を用いた「投げかけキャプション」を配布することで、優れた作品を見る機会を提供することができないか。

●県内の美術館が所蔵するさまざまな作品の絵葉書を用いた「投げかけキャプション」をまとめたら、そのまま、効果的な資料集にもなる。

●鑑賞の授業がほとんどない――(美術が専門でない先生方には、実施は困難)――現状では、とにかく、子どもたちが、絵葉書の写真図版であっても、優れた作品に触れる場所として、「投げかけキャプション」を考えればよいのかもしれない。

●それならば、授業に使用する、しないにかかわらず、まず、多くの学校に、大量に配布して、掲示してもらうことが目的となる。

●この研究会では、ツールとして作ることだけに専念し、使い方は現場の先生方に考えてもらってもよい。

■「投げかけキャプション」のツールとしての形態

◆上記の議論を踏まえ、「投げかけキャプション」のツールとしての具体的な形態をどのようにするかについて、話しが展開した。

●現場の先生方も、とにかく忙しいので、掲示するのに準備が必要ないツールでなければいけない。

●葉書用の額1点、絵葉書数点、キャプション数点のセットにしたらどうか。

●葉書用の額1点、絵葉書1点、キャプション1点のセットで、絵葉書やキャプションを取り替える手間を減らした方が、忙しい先生方には受け入れられ易いのではないか。好評であれば、あとからキャプションを追加すればよい。

●額とキャプションをリングでつなぐようにすれば、あとでキャプションだけを取り替えられる。

●額とキャプションが別々だと掲示方法に制約が出来る。「言葉」をよく選び、額の上にキャプションを印刷するなど、一体化させた方がよい。美術のツールとしては、見栄えもよくなければいけない。

●額とキャプションは一体になっていた方が、デザイン的にもすっきりとするし、子どもたちに与えるインパクトも大きいと思う。

●むしろ、額のコストを最低限まで切り詰めて、さまざまなパターンの「言葉」を記した額を大量に配布できるようにした方がよい。

●大量に配布することを考えるならば、コストや労力の面からも、製作工程が単純で済む簡潔な形態がよいだろう。

●ここまで議論が進めば、そろそろ、試作品のアイデアができるのではないか。

●前回からの課題である、子どもたちに立体的な空間概念を理解させる方法についても、もちろん、新たなツールの制作も別に考えなければいけないが、まずは、世界中の優れた絵画作品に親しむことを、その第一歩とできるかもしれない。


■次回の研究会

◆作品の絵葉書を用いた「投げかけキャプション」を、どうにか、具体的なかたちにしてみる。もし、試作品のようなものができれば、それについて討議を行なう。また、子どもたちの、空間概念を理解する力の不足を補うためのツールについても、引き続き、新しいアイデアを考えていきたい。