第5回〈鑑賞ツール研究会〉の報告

日時◆2007年8月24日(金曜日)
  ◆18時00分〜
会場◆栃木県立美術館 普及分館ラウンジ

参加◆大学関係者  1名
  ◆高等学校教員 1名
  ◆中学校教員  1名
  ◆美術館学芸員 4名
  ◆合計     7名

 2007(平成19)年8月24日、第5回〈鑑賞ツール研究会〉が栃木県立美術館の普及分館ラウンジを会場に開催されました。
 今回は、7月から8月にかけて小杉放菴記念日光美術館で実施された〈対話型鑑賞実践研究会〉についての報告と反省を行なったあと、これから実際に製作しようとする「鑑賞ツール」の具体的なイメージについて討議しました。

【今回の議題】

■〈対話型鑑賞実践研究会〉について

●美術の対話型鑑賞によって、「言語能力」の育成を図ることができるのではないか。

●「言語能力」の差を共同学習によってカバーし、子ども同士で、その能力を引き上げることができれば実りが大きいだろう。

●近年、低下しているとされる、子どもたちの表現力と読解力の向上も期待できる。

●対話を行なうにあたり、「嫌なことは言わない」という約束を守らせたり、同じ言葉を使わない練習をするなど、一定のルールを作る必要があるのではないか。

●〈対話型鑑賞実践研究会〉でトーカーを務めたのは楽しい経験だったし、トークが予想以上に盛り上がることもあったので、それで当初の目的は果たせたと思うが、対話型鑑賞では、つねに「楽しさ」の先が求められていることは意識しておかなければいけない。

●対話型鑑賞の「楽しさ」といっても、それについては、子どもたちがどのような状況にあることが「楽しんでいること」となるかを、それぞれのトーカー(教師)が共通理解を持つ必要があるだろう。そして、この「楽しさ」の内容を細かく説明できると、研究会の成果として外部へもアピールできるのではないか。

●「楽しさ」の具体的な内容としては、「作品に興味を持つ」ことだと考えられるのではないか。

●美術館では、安易に「楽しさ」という言葉を使いがちだが、「楽しさ」の内容をもっと具体的に示す必要がある。

●宇都宮美術館では、トーカーがとくに対話を促さなくても、子どもたちが、主体的に対話をして、子どもたちだけで対話がまわる状況となれば、対話型鑑賞が成功したと考えている。

●対話型鑑賞の「楽しさ」とは、参加者に主体性が生まれ、参加者同士の対話が展開することの充実感が持て、美術作品に対する興味や関心が引き起こされるということでよいのではないか。

●対話型鑑賞が、「見る」という活動を深める方向性を持つのならば、トーカー自身が、深まりの目標値を持っていないと、子どもたちの鑑賞が深まっている程度がわからないのではないか。そのためには、対話型鑑賞のケースやパターンを整理して、トーカーが予備知識として持つといった教材研究が必要となる。

●子どもたちが対話型鑑賞をどのように受け止めているのかを、子どもたちの視点から、知る必要もある。

●対話型鑑賞を行なう上では、やはり、知識の提供も必要ではないか。

●また、知識の獲得にも、楽しさを体感することが必要となる。

●美術館では、子どもたちに「楽しかった」と感じてもらえればそれでよいが、学校で評価を行なうことを考えると、やはり、それだけではむずかしいと感じた。

●そこで、美術館と学校が、お互いの役割分担を明確にして、連携を深めていくことが必要となる。対話型鑑賞は美術館で行なうからこそ、効果が上がるという側面もあるのではないか。

●今回の〈対話型鑑賞実践研究会〉においては、どうしても時間が足りないという問題があった。

●今回の〈対話型鑑賞実践研究会〉は小学生が対象であったが、これが、思春期の中学生になると、意見が出にくくなり、対話がむずかしくなる。アート・ゲームなどの小道具により、話しやすい雰囲気を作る練習が必要になってくると思われる。

■「鑑賞ツール」の開発についての考え方

●学校にも貸し出すことができる、教材に使えるツールの開発を目標としてはどうか。

●学校と美術館のそれぞれで必要だと考えられる「鑑賞ツール」はどのようなものか。

●これから、来年の3月までの間に何種類かのサンプルを製作してみる。

●よいアイデアがあったら、しっかりとした商品として製作するプロセスへ移行する。

■「鑑賞ツール」に関する具体的なアイデア

●触れることができるツールを考えることができないか。

●触れることができれば、目の見えない人も理解することができる。

●作家の意図を理解させるために触れさせるのではなく、空間を認識させることを目的として、触れさせることにしたい。とくに、最近の子どもたちは、空間を認識する能力が発達していないように感じられる。

●触れることができるツールは、立体を見るための教材となる。

●触れることで、手触りの問題に意識が向けば、素材について考える契機になる。以前に栃木県立美術館が製作した素材BOXのようなツールになるのではないか。

●実際に製作するのならば、とりあえず、紙媒体を用いるのが廉価でよい。

●それならば、前回の話しにも出た、「きっかけカード」や「投げかけキャプション」について、さらに研究してはどうか。

●美術館で発行している絵葉書に「投げかけキャプション」を組み合わせたキットが製作できれば、学校でも、他の美術館でも手軽に使える、汎用的な鑑賞ツールになる。

●まずは、絵葉書とセットで用いる「投げかけキャプション」を考えてみよう。


■次回の研究会

◆とりあえず、次回は作品の絵葉書を用いた「投げかけキャプション」についての検討を深めることにし、各々、美術館から素材となりそうな絵葉書を持ち寄ってくる。