第2回〈鑑賞ツール研究会〉の報告
日時◆2007年5月18日(金曜日)
◆18時00分〜
会場◆宇都宮美術館 会議室
参加◆大学関係者 1名
◆中学校教員 1名
◆小学校教員 2名
◆美術館学芸員 3名
◆合計 7名
2007(平成19)年5月18日、第2回〈鑑賞ツール研究会〉が、宇都宮美術館を会場に開催されました。
今回は、前回に引き続き、「言葉のツール」としての対話型鑑賞について、主に下記の資料などを参考に、討議を進めました。
- 資料1◆アメリア・アレナス「授業の進め方」
『mite!ティーチャーズキット』1−3(2005年、淡交社) - 資料2◆「対話型鑑賞・体験シート」
(アメリア・アレナスの対話型研修に基づくチェックシート)
【今回の議題】
■前回の対話型鑑賞の体験をふまえた感想や意見
●対話型鑑賞を実際に体験することで、そのメリットを実感できた。とくに、対話で取り上げた作品についての問いを、その後も意識し続け、いつか自分なりに解決したいというモチベーションが継続している。
●対話型鑑賞の限界についても冷静に洗い出し、この研究会で問題解決を検討する必要がある。
●対話型鑑賞の方法も発達段階と対比して構造化できないか。ハウゼンの発達段階などに対応させて、対話型鑑賞の方法を構造化すると、その効果を検証することもできるのではないか。
●前回にも話題になった、学校と美術館との、それぞれの意図の違いをどう克服するかという課題は、依然、のこされている。
●ビジュアル・シンキング・カリキュラムのようなスタータ・キットを、県内の美術館の所蔵作品を対象に作成できないか。それらを蓄積していくと、かなり充実した鑑賞教材になるのではないか。
●バインダー・タイプで提供されている「ニューヨーク近代美術館の教師用キット」は、テキスト(教師が問いかける3つのシンプルな質問など)と、作品のスライドがセットになっていて、ビジュアル・シンキングの理念に基づいた構成であるが、鑑賞者へ作品の情報を提供する点が、アメリア・アレナスの方法と異なっている。
●アメリア・アレナスの方法にとらわれず、鑑賞者に情報を提供することも考慮した方がよいのではないか。
●年齢などの発達段階に応じた情報の提供は、あえて禁じる必要はないと思う。ただし、その場合、どの程度までの情報を与えたらよいかなど、むしろ、その手法について考えていきたい。
●表現行為は作者個人の状況と結びつくものなので、作者についての情報も禁じる必要はない。
■学校の授業での対話型鑑賞について
●『mite!ティーチャーズキット』は、発達段階を考慮して作品が選定されており、巻末には、授業の進め方や重要なポイント、作品についての解説などが収録されているので参考になる。また、本来は対話型鑑賞を目的とする書籍ではないが、『「分析批評」による名画鑑賞の授業』(岩本康祐〔著〕、1990年、明治図書)は、発問の工夫や、プロセスの途中で必要な情報を子どもに提供するやり方など、参考になる点もあるのではないか。
●小学校でも、対話型鑑賞を取り入れた実践は、少しずつ広がっている。
●小学校の研究会では、子どもへの発問を集積したデータベースのようなものを、実際に作ろうという試みがなされている。対話型鑑賞における発問でも、同様のものを作れるとよいのではないか。
●中学校における美術の鑑賞では、社会科や国語科などの他の教科とどう違うのかという点を明確に示さなければならない。対話型鑑賞で、どのように「美術」の独自性を出していくかが課題である。
●「美術」(の教科)ならではの特徴としては、「実体験」や「本物」を重視することが挙げられるのではないか。
●「美術」においては、好きか嫌いかという感性の問題が重要になってくる。
●他者に勧めることができるかどうかで、好きか嫌いかを判断させるのもよい。
●「あなたは、この作品のどこをお薦めしますか?」という発問は、作品のよい点を、自分で見つけることにつながっていく。
●「美術」を通して、自らの感性に自信を持たせることも目標になるのではないか。
■対話型鑑賞でのトーカーがスキルを高めていくための研修方法について
観察者を設けて対話型鑑賞の実践を記録し、その記録を参考に、改善点などを検討する方法が説明された。そして、対話型鑑賞の実践を観察するために活用する「対話型鑑賞・体験シート」(資料2)が配布され、内容について検討した。
◆「対話型鑑賞・体験シート」の項目
- 〈開かれた質問〉
- 〈閉ざされた質問〉
◆交流を促すナビゲーション
- 1. 開かれた質問
- 2. 思考のための助言
- 3. 発言の多様化
- 4. 対話のための焦点化 etc.
◆リレーションを築く応答
- a. 確認
- b. 繰り返し
- c. 言い換え
- d. 付け足し
- e. 発言の掘り下げ etc.
「対話型鑑賞・体験シート」の項目については、それらが思考の言語化を目指して、対話のテクニックに焦点化され過ぎているのではないかという疑問が提起され、このことの問題点に関して討議された。
●「対話型鑑賞・体験シート」のチェック項目が美術の鑑賞に関するものではなく、対話法のテクニックであるとするならば(対話型鑑賞のキーワードは「思考の言語化」)、道徳など、他の教科でも使えるのではないか。
●他の教科での対話型学習の事例としては、中学校の社会科で、戦争について調査させ、合意形成の方法を学んだ例がある。ここでも、教師の役割は討論の交通整理であった。
今回、「対話型鑑賞・体験シート」に基づいて対話型鑑賞の実践をモニタリングする予定となっていたが、時間の都合で次回に廻すこととなった。
また、鑑賞のための「言葉のツール」について考える場合、対話として「言葉」を話すこと(対話型鑑賞)だけに限定するのではなく、記述として「言葉」を書くことにも注目してはどうかという提案があり、今後、検討していくこととした。
■次回の研究会
◆次回は、宇都宮大学教育学部附属中学校において開催し、俵屋宗達の《風神雷神図》を対象とした対話型鑑賞を体験したあと、「体験シート」を活用して検証してみる。
※次回の研究会の日時や場所などの詳細については[投稿記事]の欄で御確認ください。