第1回〈鑑賞ツール研究会〉の報告

日時◆2007年4月27日(金曜日)
  ◆18時00分〜
会場◆宇都宮美術館 会議室/展示室

参加◆大学関係者  4名
  ◆中学校教員  2名
  ◆美術館学芸員 6名
  ◆合計     12名

 2007(平成19)年4月27日、第1回〈鑑賞ツール研究会〉が、宇都宮美術館を会場に開催されました。
 今回は、「言葉のツール」としての対話型鑑賞について討議したあと、宇都宮美術館で開催中の企画展〈宇都宮美術館開館10周年記念展 シュルレアリスムと美術 イメージとリアリティーをめぐって〉を題材に、対話型鑑賞の実演も行なわれました。

※「配付資料1」と「配付資料2」は、2003年11月に開催された〈アメリア・アレナス鑑賞教育セミナー〉における配付資料より。
※「配付資料3」は、〈@museum〉のホームページより。

【今回の議題】

■対話型鑑賞についての考え方

●ビジュアル・シンキング・カリキュラム(見えている部分だけを対象とすることで、精緻な視覚的観察に基づいた洞察を鑑賞者に促す)に基づいて行なう。

●美術史的な知識は除外して、作品については「見えているものだけが全て」という考え方を採る。(むしろ、知識は無い方がよい。)

■対話型鑑賞を行なったときの失敗談について

●小学校の高学年になると子どもたちがなかなか発言しなくなってしまうので、トーカー(司会者)が待てなくなり、催促をしたり、誘導したりしてしまう。(宇都宮美術館)

●「なにが描かれている?」というのはよくない発問だった。この発問だと子どもたちは描かれていること以外は話してはいけないと思ってしまう。「どう思う?」がよいのではないか?(小杉放菴記念日光美術館)

●まず、どの作品を選ぶかということが大切。(中学校教員)

●生徒の発達段階を把握しておくことが大切。(中学校教員)

■美術館が目ざす対話型鑑賞と学校が求める対話型鑑賞

●美術館では、鑑賞者が主体性を認識して、自覚的に鑑賞できるようになることが重要と考えている。(美術館学芸員)

●学校でも、最終的な目標は同じであるが、それ以前に、技法や美術史など、教科として教えなくてはならないことが決められている。(中学校教員)

●さらに学校では、子どもたちに対する評価を行なうためにも、言葉の表現に結びつける鑑賞が求められている部分がある。(中学校教員)

●鑑賞を言葉の表現に結びつけることを、思考の言語化として捉えるならば、これは他の教科でも育成できる内容になってしまう。学校の教科としての「美術」が生き残っていくためには、何か、美術ならではの意義が必要になるのではないか。(美術館学芸員)

■中学校の対話型鑑賞と小学校の対話型鑑賞

●対話型鑑賞では、作品を言語化しなければならないので、一定の水準以上の国語力が必要とされる。また、トーカーには、その場に集まった人たちの意見をまとめ上げる力が重要になってくる。(中学校教員)

●学校の子どもたちを対象とした対話型鑑賞において、トーカーの役割を行なうのは、担任の先生がよいと思う。(大学関係者【小学校教員】)

■日本の対話型鑑賞とアメリカの対話型鑑賞

●日本とアメリカでの教育の仕方のちがいは対話型鑑賞にも影響しているだろう。日本の教育現場では、子どもたちが積極的に発言するのに勇気がいる。対話型鑑賞においても、アメリカ式をそのまま用いるのではなく、日本で独自の工夫が必要ではないか?(美術館学芸員)

■対話型鑑賞の実践(例)

 宇都宮美術館の展示室を会場にして、宇都宮美術館の伊藤伸子さんと小杉放菴記念日光美術館の鈴木日和さんに、それぞれが、自らで行なわれている対話型鑑賞を実演していただきました。

◆対話型鑑賞の対象とした出品作品

■対話型鑑賞を実演したあとの検証

●対話型鑑賞で自由に自分の考えを話すことは楽しいが、結局、「本当はどうなのか」という疑問は残り、消化不良の感が否めない。(大学関係者)

●美術館で対話型鑑賞を行なったあとに、事後学習として使えるワークシートを作成してみてはどうか。(大学関係者)

●対話型鑑賞を行なう際、トーカーが発する質問には、活発な発言をうながす「開かれた質問」と、発言を停滞させてしまう「閉ざされた質問」とがあることが分かったので、今後、質問を具体的に分類し、効果的な質問を集めた「質問リスト」を作成してみてはどうだろうか。(美術館学芸員)


■次回の研究会

◆次回は、宇都宮美術館において開催し、〈宇都宮美術館開館10周年記念展 シュルレアリスムと美術 イメージとリアリティーをめぐって〉に展示されている作品を対象に参加者がトーカー(司会者)の役を体験してみる。

※次回の研究会の日時や場所などの詳細については[投稿記事]の欄で御確認ください。