2007年度 対話型鑑賞実践研究会/夜間鑑賞教室

反省

 全般的に、作品をよく見て、美術を鑑賞する楽しさを体験させるという「ねらい」は、達成できていたのではないか、という認識で一致した。

■〈対話型鑑賞実践研究会〉について

●美術の対話型鑑賞によって、「言語能力」の育成を図ることができるのではないか。

●「言語能力」の差を共同学習によってカバーし、子ども同士で、その能力を引き上げることができれば実りが大きいだろう。

●近年、低下しているとされる、子どもたちの表現力と読解力の向上も期待できる。

●対話を行なうにあたり、「嫌なことは言わない」という約束を守らせたり、同じ言葉を使わない練習をするなど、一定のルールを作る必要があるのではないか。

●〈対話型鑑賞実践研究会〉でトーカーを務めたのは楽しい経験だったし、トークが予想以上に盛り上がることもあったので、それで当初の目的は果たせたと思うが、対話型鑑賞では、つねに「楽しさ」の先が求められていることは意識しておかなければいけない。

●対話型鑑賞の「楽しさ」といっても、それについては、子どもたちがどのような状況にあることが「楽しんでいること」となるかを、それぞれのトーカー(教師)が共通理解を持つ必要があるだろう。そして、この「楽しさ」の内容を細かく説明できると、研究会の成果として外部へもアピールできるのではないか。

●「楽しさ」の具体的な内容としては、「作品に興味を持つ」ことだと考えられるのではないか。

●美術館では、安易に「楽しさ」という言葉を使いがちだが、「楽しさ」の内容をもっと具体的に示す必要がある。

●宇都宮美術館では、トーカーがとくに対話を促さなくても、子どもたちが、主体的に対話をして、子どもたちだけで対話がまわる状況となれば、対話型鑑賞が成功したと考えている。

●対話型鑑賞の「楽しさ」とは、参加者に主体性が生まれ、参加者同士の対話が展開することの充実感が持て、美術作品に対する興味や関心が引き起こされるということでよいのではないか。

●対話型鑑賞が、「見る」という活動を深める方向性を持つのならば、トーカー自身が、深まりの目標値を持っていないと、子どもたちの鑑賞が深まっている程度がわからないのではないか。そのためには、対話型鑑賞のケースやパターンを整理して、トーカーが予備知識として持つといった教材研究が必要となる。

●子どもたちが対話型鑑賞をどのように受け止めているのかを、子どもたちの視点から、知る必要もある。

●対話型鑑賞を行なう上では、やはり、知識の提供も必要ではないか。

●また、知識の獲得にも、楽しさを体感することが必要となる。

●美術館では、子どもたちに「楽しかった」と感じてもらえればそれでよいが、学校で評価を行なうことを考えると、やはり、それだけではむずかしいと感じた。

●そこで、美術館と学校が、お互いの役割分担を明確にして、連携を深めていくことが必要となる。対話型鑑賞は美術館で行なうからこそ、効果が上がるという側面もあるのではないか。

●今回の〈対話型鑑賞実践研究会〉においては、どうしても時間が足りないという問題があった。

●今回の〈対話型鑑賞実践研究会〉は小学生が対象であったが、これが、思春期の中学生になると、意見が出にくくなり、対話がむずかしくなる。アート・ゲームなどの小道具により、話しやすい雰囲気を作る練習が必要になってくると思われる。

■「はがき型ワークシート」について

●対話型鑑賞を行なう前に、子どもたちが「はがき型ワークシート」に自分の考えを書くことによって、全員が自分の意見を話すことができた。

●「はがき型ワークシート」を使用し、子どもたち一人一人の名前を把握できたことは、初対面の相手に対話型鑑賞を実践する上で効果的だった。

●「自分が使ってみたい(=好き)」という観点だけではなく、その「はがき」を「送りたい相手」の存在を子どもたちに意識させることで、作品が、自分の中だけで完結しないことにつながった。「はがき」(ワークシート)という媒体が人を介し、美術と社会とのつながりといった、絵を見る楽しさだけではない美術の価値を伝えることもできた。

■対話型鑑賞について

●今回は、担当したグループの子どもたち全員が選んだ作品を見て歩き、ひとつひとつ対話していくという方法を前提としため、時間的な余裕がなかった。

●限られた時間内で対話型鑑賞を行なうことのむずかしさがあった。

●学校によって、子どもたちの話す能力に差があったように思える。美術館での一期一会ともいえる対話型鑑賞の機会は、相手の能力によっても、深めていくことがむずかしい場合があると感じた。

●学校間の差だけでなく、同じ学校内であっても担当したグループによっては、鑑賞の内容に差がでたように感じる。グループ内の子どもたちをいかに対話に引き込むかが、対話型鑑賞のポイントとなる。

●学校の授業で行なう対話型鑑賞では「ねらい」がはっきりしているが、美術館で行なう対話型鑑賞では、対象となる子どもたちとの事前の交流がないので、「ねらい」などを設定できず、出たとこ勝負の対話方法になってしまう。

●対話によって鑑賞を深めていくことよりも、子どもたちに対話をさせること自体に気を遣わねばならなかった。

●対話型鑑賞を行なう上で、今回の場合は、作品のサイズの小さいことが弱点となったのではないかと感じる。子どもたちは作品を見てはくれるけれども、そこからの鑑賞の深め方がむずかしい。

●今回の展覧会でも、「はがき」という側面からだけではなく、もっと、美術作品として見せていくアプローチがあってもよかったのではないか。

●今回は、全て小学校の6年生が対象だったが、初めて対話型鑑賞を行なう子どもたちに対して、最初に、どこまでのアプローチが必要かを、それぞれの発達段階に応じて考えてみるとよいのではないか。

■小杉放菴記念日光美術館の〈夜間鑑賞教室〉について

●美術館を貸し切りにして作品を鑑賞するという体験は、子どもたちにとって、非常に貴重な、よい機会だったのではないか。子どもたちの今後の鑑賞活動の充実にもつながっていく可能性がある。

●限られた時間内で効果的な鑑賞を行なうためには、受け入れる人数を制限することも考慮した方がよいのではないか。

ART NET TOCHIGI ∞ Kosugi Hoan Museum of Art, Nikko