2006年度の[絵画鑑賞教室]を中心に
◆小杉放菴記念日光美術館における、2006年度の〈絵画鑑賞教室〉は、おおよそ、下記のような手順で実施しました。
- 挨拶および担当者の紹介
- 美術館で守らなければいけない「3つのルール」を説明
- 展示室内を自由に見て回り、作品を1点選ぶ
- ワークシートがある場合は、それを配布
- 一人一人が選んだ作品をグループ全員で鑑賞
- まとめ
……子どもたちの作品の選択について
●作品を選ぶ際は、「友だちとは相談しないで、自分の眼で見つけること」と念を押す。
●「友だちとは相談しないで、自分の眼で見つけること」、または「友だちと同じ作品を選ばなくてよい」と言ったことを、「友だちと同じ意見を言ってはいけない」と誤解してしまった子どもがいた。
▼作品の選び方を説明するときに、分かりやすく、誤解をしにくい内容にしなければいけない。
●日本の子どもたちは、「友だちと相談しないで、自分の眼で作品を選んでください」と念を押しても、一つの作品に仲良しグループで固まる傾向があった。
●それに対して、アメリカの子どもたちは、それぞれ、自由に自分の好きな作品を選んでいた。
●また、アメリカの子どもたちは、特定の傾向に偏ることなく、それまでの多くの日本人鑑賞者があまり好まないような作品も積極的に選んでいた。
▼選んだ理由を、それぞれに尋ねてみたが、作品に対する感じ方には、日本とアメリカの子どもの間に、とくに異なる部分は無かったように感じられた。
●想像以上に、小杉放菴の水墨画を選択した男子児童が多かった。
●やはり、抽象的な作品よりも、分かりやすい作品が選ばれる傾向がある。
●「花」などのように、比較的にはっきりした色彩で描かれたモティーフの方が、子どもたちには馴染みやすかったらしい。
▼そのときに、ちょうど学校の敷地内に咲いていた花など、身近なもの――見慣れている対象が描かれている作品の方が、安心して選ぶことができるという傾向を感じた。
▼直前に観光で見てきた滝の風景など、自分の記憶や経験が呼び起こされたり、反映できたりする作品に惹かれているという実感もあった。
▼小杉放菴の日本画における、墨の濃淡や余白の味わいなどを、鋭くとらえていた。
……子どもたちの発言の仕方について
●多くの子どもたちが、しっかりと自分の意見を述べることができた学校では、「一分間スピーチ大会」という取り組みを行なっていた。
▼自分の気持ちや考えを的確に言語で表現するためには、日頃からの訓練が必要であると改めて感じた。
……鑑賞の手順について
●子どもたちによるオリジナルのタイトルをつけてもらうワークシートを配布するとき、事前に、作品にタイトルをつける作業があることを伝えてしまうと、安易な作品を選ぶ傾向があるのではないかと予測し、全員が作品を選び終わってからワークシートを配るようにした。
●作品を選んで、ワークシートを書き上げてしまったら、そのあと、グループ分けをして鑑賞を始めるまでが間延びしてしまい、どうのようにしていたらよいのか、戸惑っている子どもたちが多かった。
▼ワークシートの内容は伏せておくにしても、鑑賞を行なう1時間の中での、おおまかな手順については、事前に説明しておいた方がよいのかもしれない。
▼最初の挨拶のあとに、おおよその鑑賞の手順を説明するようにしたところ、それ以降は落ち着いて行動できたように感じられた。
……時間と人数について
●参加人数が多い場合、できるだけ一人一人から話を聞こうとすると、どうしても時間を気にしながらの対応となってしまう。
▼1時間という限られた時間内では、初めて対面する子どもたちについて把握し、その感性を刺激することは、きわめてむずかしい。
▼一人一人が感じていることを深めていくためには、1人に対していくつかの問いかけをすることが必要であるが、人数が多いと時間がかかり過ぎる。
▼子どもたちの集中力が維持させたまま、効果的に鑑賞を行なうためには、案内役1人に対して、子ども20人程度が限度ではないか。
……混乱したときの対処について
●入館時から私語が多く、ざわついた雰囲気の学校があり、対応がむずかしかった。
●話の内容を茶化してくる子どももいた。
▼〈夜間絵画鑑賞教室〉への参加が林間学校の初日であったりすると、どうしても子どもたちは浮き足だっている感じがした。
▼とくに、日中にハイキングなどをしてきたあと、夕食後に来館していることを考慮するならば、子どもたちの集中力が持続しないのも仕方がないのかもしれない。
▼美術館の担当者の話し方も、子どもたちの興味を呼び起こすようなものになっていたかどうかという検討も必要。
▼30名を超える子どもたちを一度に担当すると、どうしても全体を掌握しきれない状況に陥ってしまう。
▼美術館の担当者として、どこまで毅然とした態度で注意してよいのか?
▼あまり強く注意すると、ますます話を聞く雰囲気ができなくなるかもしれない。
▼その場合、美術館の担当者と引率の先生と、子どもたちとの間の関係性を、どのように構築するべきか?
……グループ分けのむずかしさについて
●ジャンルが全く異なる作品が同時に並ぶ展示のときに、それぞれの一部に偏って作品を選ぶ傾向があり、さまざまな感性を子どもたちに理解してもらうためにも、あえて両方のジャンルを見ることができるグループ分けを行なった。
●結局、二つのグループが会場を入れ替わるだけで、話もまとめにくかった。
●ジャンルの異なる作品に移るときに集中力が維持できず、その後は、早く終わることを望むようになる。
●二つのグループで会場を入れ替わるときに、片方のグループの話が終わっていなかったので、それを聞きながら待つように促したところ、集中力が途切れてしまった。
▼子どもたちは、一度、グループに分けると、仲間意識が生じ、自分の所属するグループ以外の話は聞く姿勢にならない傾向がある。
▼同じ世界を感じる子どもたちを集めてグループを作った方が、話をまとめやすい。
……全体として
●絵に興味がある子どもと、そうでない子どもがいる。
●子どもたちは、自らが望んで鑑賞教室に来るわけではない。
▼話をうまくまとめることを目的にしてはいけないと感じた。
▼美術館が、鑑賞教室を実施することで何を伝えたいのかという基本的理念は揺るがせにしない。
▼一人一人が感じたことを、深く見つめることを目指す。
▼一人一人が作品を、自分の眼で見ることができるようになることを目指す。
▼「絵を見て何を感じるか」と問いかけるのは、グループ全員で一枚の絵について対話型鑑賞を行なった後にした方が効果的であると実感した。