小杉放菴記念日光美術館の鑑賞教育|担当者の所感

2005年度の[絵画鑑賞教室]を中心に

◆小杉放菴記念日光美術館における、2005年度の〈絵画鑑賞教室〉は、おおよそ、下記のような手順で実施しました。なお、本年度は学校側の希望により、鑑賞のあとに作品の模写を行なった例もありました。

……子どもたちの作品の選択について

●館外出前授業を実施した学校が美術館を訪れたとき、事前の授業で画像を紹介した作品ではなく、展示室で初めて見た作品に関心を向けていた子どもたちが多かった。

▼画像ではない、実際の作品が持つ、本物の力を感じたのかもしれない。

……子どもたちの発言の仕方について

●作品を見ながら実施した対話型鑑賞では、前列に座った男の子が中心となり、活発な対話が行なわれた。

▼やはり、前に座る子どもは積極的に発言してくれる気がした。

●小学生では、男の子の方が、活発に発言する。

●グループで行なう対話型鑑賞において、思春期の子どもたちは、周囲を気にして、積極的に話そうとする雰囲気になりにくい場合もあった。

▼対話型鑑賞を集団で実施するよりも、個別に意見を聞いた方が、効果的な場合もあるのではないかと感じた。

▼子どもたちが話す感想に対するコメントには、工夫が必要だと思った。

▼子どもたちは、自分に真剣な感心に持ってくれる人間には好意を感じたようだった。

……鑑賞の方法について

●対話型鑑賞における最初の発問を「何が見える?」としてきたが、6年生ともなると、単純に見えるものを答えて良いのかどうか、とまどっている様子が多く見られた。

▼「何が見える?」から「どんな感じがする?」に発問を変え、感じたことをきっかけに細部まで作品を見ていく方法を試してみようと思った。

●対話型鑑賞での最初の発問を、「何が見える?」から「どんな感じがする?」に変えてみると、質問の意味がスムーズに伝わったのか、次々に意見が述べられた。

●意識的に絵を見るというのは、どのようなことかを実感してもらう方策として、最初に2分間くらい作品を見せ、そのあと、子どもたちに目を閉じさせて、作品に描かれている内容を答えてもらった。

●ほとんどの子どもが、よく見ているつもりでいたが、実際には、目を閉じてしまうと、何が描いてあったかを正確には答えられなかった。

▼子どもたちは、目を閉じることに、結構、素直に応じてくれ、興味を持ったように感じられた。

▼人間は、ものを見ているようで、実は見ていない――見ることができていないことを実感した。

▼この方法は、多くの人たちに、「見ること」とは、一体、どのようなことなのかを具体的に考えてもらう有効な方法ではないかと思う。

▼あまり長い時間、目を閉じたままで話を進めると眠くなってしまう子もいるので、常に気にしながら進める必要がある。

●美術館の役割や、文化財の保存に関する話をするときも、実際に展示されている作品を比較しながら、周囲の環境が作品に及ぼす影響について述べたところ、子どもたちには理解しやすいようだった。

●美術館で守らなければいけない「3つのルール」=「走らない」「触らない」「大きな声で騒がない」を紹介するときも、何故、そうしなければいけないのかという理由を具体的に説明すると、その必要性を納得してもらいやすかった。

▼子どもたちと話すときのポイントとして、内容が具体的であることは重要だと感じた。

●作品に関する問いかけに対して、必ず一つの決まった解答が存在するはずだと主張する子どもがいた。

▼絵を見て、いろいろなことを感じるのは自由で、誰もが、みんなと同じでなくてもよい――それが絵を見て楽しむことであり、一つの決まった答えがあるわけではない、という趣旨を説明したが、納得していない様子だった。

●作品に描かれた情景の中に科学的な矛盾を見つけたという子どもが質問してきて、その返答に困った。

▼担当者には、作品の鑑賞には関係がない、絵を味わうことから離れてしまっている質問だと思われたが、どのように、この子どもの真剣な思いを受けとめて、疑問に対応すればよいのだろうか?

……時間と人数について

●午前9時から始めた鑑賞教室では、まだ、身体と頭が起きてないときに静かな展示室で活動したためか、活発な対話をすることができなかった。

●昼間、開館時間内に行なう〈絵画鑑賞教室〉と比べ、閉館してから貸し切りで実施する〈夜間絵画鑑賞教室〉の方が、子どもたちが落ち着いていた。

▼担当者が大きな声を出さなくても、自然と話を聞く体勢に入ることができていた。

●子どもたちの集中力は、1時間までが限度。

●とくに、1点の作品だけをテーマにした鑑賞は、それほど長く行なわない方がよい。

▼子どもたちの様子に気を配り、眠そうな仕草や飽きてきている兆候が見えるときには、臨機応変に対応しなければいけない。

……混乱したときの対処について

●日光に到着して最初の見学先が美術館だったとき、子どもたちの様子が、何となく落ち着かず、私語も多かった。

▼目的地に着いたばかりで、興奮していたのかもしれない。

●鑑賞教室の最中に、ふざけた態度をとった子どもに対して、適切に注意することができなかった。

●引率の先生方の様子を見ても、注意するそぶりがなかった。

▼引率の先生方への遠慮もあったが、このような場合、どのように対処すればよいのか?

▼やはり、鑑賞教室も社会体験の場であるので、善いことと悪いことの区別を毅然とした態度で子どもたちに伝えることも必要ではないだろうか?

●《泉》のよる対話型鑑賞では騒がしかった子どもも、美術作品の保存に関する話をしているときには、少しおとなしい態度で聞いていた。

▼ふざける子どもでも、自分が興味を持つ分野に関しては、おとなしく話を聞けるのかもしれない。

……模写について

●同行した図工の先生の希望により、鑑賞のあとに模写を実施したことがあった。

●鑑賞プログラムのまとめとして、自分が選んだ作品の模写を行なうことは有効だった。

●子どもたちは、非常に熱心に模写をして、また、よく特徴を捉えていた。

▼自分の眼で見て感じ、自分なりに理解したことが模写に生かされているとを感じた。

……全体として

●対話型鑑賞よりも、美術館の役割や、文化財の保存に関する話の方に興味を示して、熱心に聞いてくれる子どもが多かった。

▼照明、温度、湿度など、自分で具体的に実感できる話のほうが、子供たちは、よりよく理解してくれると思う。

●美術館を実際に訪れて、その雰囲気を肌で感じ、作品と対面する機会は、子どもたちにとって貴重な経験であり、個人差はあるが、たしかに何かを感じてくれている。

●どんな学校でも、必ず一人か二人は、熱心に美術の話しを聞いてくれる子どもがいる。

▼たとえ数は少なくても、そのような子どもの真剣な反応を大切にしていきたい。

●これまでに、よその美術館へも行ったことのある学校があったが、「絵の見方」などについては、話を聞いたことはないということだった。